番外. 機真面目Xデー 



前哨戦 

「先輩! 機真面目先輩!!」
「・・・何だ、騒々しい。」
「今見てきたら、先輩、24日も25日もシフト入ってるじゃないっすか!」
「うむ。その日業務を行う予定の者に、何故か、替わってくれと頼まれた。」
「頼まれた・・・って、いいんすか!? それで!」
「何か問題でもあるのか。」
「問題もなにも、クリスマスっすよクリスマス!」
「宗教行事に興味など無い。興味を持つ意味も無い。」
「・・・まあ、それなら別にいいっすけど・・・。」
「何だ、その含みのある言動は。」
「いや、先輩の彼女さん、そういうイベント好きそうじゃないっすか。いいんすか? 一緒に過ごさなくて。」
「何故だ。」
「なぜって、そりゃクリスマスだからっすよ。世のカップルはそりゃもうこぞってイチャコラするんっすよ。」
「そうなのか。」
「一般常識っすよ。あ・・・も、もしかして先輩、彼女さんに捨て らっしゃいませー。」
「いらっしゃいませ。」
「うあー、外さむかったー・・・。」
「・・・あー、先輩、俺ちょっと奥でやることがあるんで。レジお願いしますっす。」
「うむ。」
「がんもどき3つね。」
「220円になります。・・・220円丁度お預かりいたします。ありがとうございました。」
「あー・・・あったかくておいしいー・・・。」
「レジの前で食べるなと何度言えば理解するのだ。」
「でも、寒かったし。・・・一個いる?」
「不要だという事も、何度言えば理解するのだ。」
「ちぇ。」
「(あれ、いつも通りっすね・・・よかったよかった。)」
「・・・あ、今度の25日だけど・・・。」
「うむ。シフトが入っている。」
「だと思った。」
「その根拠は何だ。」
「興味ないだろうから、きっと誰かと替わってあげてるんだろうなーって思って。」
「おおよその事実と相違は無い。」
「だから、26日にクリスマスやるからね。チキンもケーキも安くなっててお得だし。」
「・・・それは、宗教的偉人の生誕を祝うという本来の趣旨から逸脱しているのではないのか。」
「別にいいんじゃないのかな。ほとんどの人はそういうの、口実にしたいだけだろうし。」
「そういうものか。」
「そういうものだよ。」



24日午前 

「キャッキャウフフ。」
「ハハハハハハ。」
「いらしゃいませ。」
「らっしゃっせー・・・。」
「ヤダー、キャハハハ。」
「フフフ・・・。」
「ありがとうございました。」
「ありあとやっしたー・・・。」
「・・・モチベーションが低いようだが。」
「そりゃあ・・・いや、なんでもねっすよ・・・。(・・・リア充爆発しねぇかなぁ・・・)」
「・・・そうか。」



24日午後 

「らっしゃいませー。」
「いらっしゃいませ。」
「いつも通り、がんもどき3つくださ・・・・・・っぷはっ!?」
「・・・何だ、その反応は。」
「だって、そのサンタ帽、に、似合ってない・・・っ。」
「(っすよねー!)」
「仕方がないだろう。期間中は身につけていろと店長から言われている。」
「でもそれかぶってても、ぜんぜんファンシーじゃないよ。」
「そうか。」
「そうだよ。」
「(そうっすよ。)」



25日午前 

「おい。」
「なーに?」
「がんもどきは食べ終えただろう。帰宅しないのか。」
「・・・もうちょっと居座る。」
「何故だ。」
「・・・もうちょっと、いっしょにいたいから、かな。・・・クリスマスだし。」
「・・・理解不能だ。」
「いいでしょ、別に。」
「お客様、立ち読みはご遠慮いただけますか。」
「・・・だめ?」
「駄目だ。」
「(駄目なんすか。)」



25日午後

「いらっしゃいませ。」
「らっしゃいませー。」
「・・・がんもどきはもう食べた筈だ。何故再び入店してくる。」
「今、ケーキ作ってるんだけど、牛乳が切れちゃってて。」
「ふむ。ケーキならば確か・・・。」
「せ、せーんぱーい! ちょっと話があるんでこっちきてくださいっすよー!?」
「・・・何だ。」
「・・・クリスマスにシフト入れた人には、売れ残りのケーキが支給されるっすよね。」
「そうだが。」
「・・・そのケーキ、譲ってほしいっす。」
「・・・別に構わないが、どういった意図が・・・。」
「べっ、別にいいじゃないっすか、俺、すっ、好きなんすよ、ケーキ。(手作りケーキがあるのにケーキ持って帰ると
か、さすがに気まずいっす。)」
「・・・そうか。」
「そうっすよ。」



25日深夜 

「先輩、プレゼントとかって、買ってあるんすか?」
「何故、そんなものを購入する必要がある。」
「・・・先輩、いくらクリスマスに興味がないからって、それはないと思うっす。」
「そうなのか。」
「そうっすよ。」
「ならば、一般的な見解としては、どのような行動をとればいいというのだ。」
「何でもいいからプレゼント買っとけばいいと思うっすよ。」
「極めて曖昧な回答だな。」
「・・・そうっすね、じゃあこれ、これ買って帰ってくださいっす。それでオッケーっす。」
「・・・ふむ。了解した。」



26日 

「はい、クリスマスプレゼント。」
「・・・何だ、これは。」
「モデルガン。」
「・・・スナイパーライフルか。」
「・・・いらなかった?」
「殺傷能力が皆無である以上、不要だ。」
「そう言うと思った。」
「ならば何故、わざわざ購入した。」
「本物は買えないけど、何かしてあげたかったから。・・・それだけ。」
「何の見返りも無しにか。」
「うん。」
「理解不能だ。」
「いつもの事じゃない。」
「・・・そうだな。」
「さて、チキンとケーキ、食べよっか。」
「うむ。」
「・・・あれ? それ、何持ってるの?」
「・・・後輩に、購入して持ち帰るよう強制されたのだが・・・理解不能だ。」
「・・・マフラー?」
「防寒具か。」
「あったかーい。・・・ありがとう。」
「強要されたから行っただけに過ぎん。」
「うん、・・・ありがとう。」
「・・・。(何を言っても無駄なのだろう、と、言うだけ無駄なのだろうな。)」
「その後輩さんにもお礼言わなきゃね。」



26日 同時刻

「(あ、このケーキ、結構いけるっす・・・。)」
「(・・・今頃、機真面目先輩達は手作りケーキ食べてるんすかね・・・。)」
「(・・・あぁ、このケーキ、しょっぱくておいしいっすね・・・。)」



ロングロング、あ、Go 

ピンポーン
「あ、いらっしゃいっす、機真面目先輩と彼女さ・・・うぉあ!?」
「・・・何だ、その奇声と妙な表情は。」
「いえ、なん、でも、ない、っすよ? うん。」
「とても何でもないようには見えないのだが。」
「やー・・・、そのマフラー、本当にそういう風に使ってる人初めて見たっすから、つい。」
「タグに記載されていた着用例に従って正しく着用しているだけだ。問題無い。」
「あー、あれっすね。(二人で密着ラブラブ巻き(はぁと ってやつっすね。)」
「うむ。語句の意味は良く分からないが、着用例に記載されていた、二人で密着ラブラブ巻きとやらだ。」
「(うわぁ。言い切ったっす。)」
「(言われるとやっぱり恥ずかしい・・・。)」
「んで、急に今から行くって電話なんてしてきたからびっくりしたっすけど・・・今日は何の用なんすか?」
「これだ。」
「これって・・・ケーキっすか。」
「一応、手作りなんですけど・・・お礼です。」
「あ、あざっす! でも、お礼される理由なんて・・・。」
「えぇと、後輩さんですし、このマフラー薦めてくれたそうですし・・・。」
「あ、そ、そうっすか。ありがとございますっす。(・・・冗談半分だったのになぁ・・・。)」
「ふむ。もう用は済んだか。帰宅するぞ。」
「あ、うん。」
「(女の子の手作りケーキ・・・うれしいっすけど、なんか、複雑な心境っす・・・。)」



ぬくぬく 

「体温を維持するという目的においては、実に効率的な防寒具ではあるが。」
「が?」
「行動を制限される点は不便だ。」
「そっ、そうかな。」
「そうだ。二人でなければ装着できないなど、不便にも程がある。」
「え、あ、そ、そうだね。」
「・・・何故、腕にしがみつく。」
「え、ええっと、このマフラー、離れてたら、ほどけちゃうでしょ?」
「・・・それは、そうだが。」
「でしょ。」
「ならば外せばいいのではないのか?」
「え、ええと、さっ、寒くて風邪ひいちゃう・・・かも。」
「・・・それならば、仕方がないな。」
「そうだね、しょうがないね。」
「・・・体温が上昇しているようだが。」
「え、あ、ま、マフラーしてるから、だよ?」
「・・・そうか。」
「・・・そういえばわたし、マフラー巻くの初めてかも。」
「ごく一般的な防寒具のようだが。」
「たぶん、避けてたんだと思う。・・・首に、巻くから。」
「・・・そうか。」



「・・・あったかいね。マフラー。」
「・・・うむ。」






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