「・・・ここに、私が落ちてたの?」

窪んだ轍。上を見上げると、枝が幾つも折れている。
枝を折りながら落ちたことで、落下の衝撃が和らいだのだろう。
右足が折れただけですんだのだから、とても運がよかったらしい。

「・・・アっち、落ちた。」

黒く焦げた木々の向こう。歩いてゆくと、それはすぐ眼前に広がっていた。
開けた空間。地面が黒い。小型の飛行機だったであろうものは、ちっとも原型を残していない。
死体らしい死体など、一つも見当たらない。
よくわからないべったりとした赤いものと、真っ黒で、妙に生々しい形をしたものが転がっていた。
黒く焦げたそれは飛行機の一部なのか、それとも

全身の力が抜け、へたりこむ。
地面についた手のすぐそばにも、真っ黒な腕のようなものが転がっていた。
それに巻かれている黒く煤けたものには、見覚えがある。

「お父さんの、腕時計・・・。」

肺から空気を絞り出すように叫んだ。
喉が痛い。息が苦しい。叫んでいるというのに、ちっとも叫び声なんて耳に入ってこなかった。
息を吐きすぎて胸が苦しい。
泣きたいのに、涙が出ない。

蜥蜴が、少しためらい、やがて気遣うように肩に手を置き、少女の顔をのぞき込んだ。

「・・・だイジョ ブ、カ?」
「触らないでよ、化け物!! 私のことは放っておいて!」

苛立ち紛れにその手を振り払うと、蜥蜴は後ずさり、きゅぅ、と、悲しげに鳴いて、森の中へと消えた。

それから暫く、動くことが出来なかった。

後悔が襲ってくるのは、とてつもなく早かった。
何故、苛立ったからといって、あんな事を言ってしまったんだろうと、後悔した。
なんて事を言ってしまったんだろう。
命を救ってくれたというのに。この光景を見ない方がいいと言ってくれていたのに。気遣ってくれていたのに。

化け物だなんて。

私がしたことといえば、ただ迷惑をかけただけだ。
謝らなければならない。感謝を伝えなければいけない。
しかし、気力の萎えた足は、立ち上がるだけの力すらも出せないでいた。

目の前に、いきなり果物が降ってきた。
振り向くとそこには、いつの間にか蜥蜴が立っている。

「ナニモ食ワナイ、動ケナイ、ナる。ソれ、食エるカ?」

謝らないといけない。お礼を言わないといけない。
それなのに私は、ただ、蜥蜴の腹に抱きついて、幼子のように泣きじゃくってしまった。
ようやく出た涙は止まらず、蜥蜴の腹を濡らした。

「ナ、ナンダ!? ドコか痛イ、か? 病気か?」

少女はブンブンと首を振って否定する。
しかし、またこの蜥蜴に迷惑をかけてしまっているということが、さらに悲しみを煽っていた。

温かな涙が蜥蜴の腹を伝う。
それでも蜥蜴は、少女の涙が止まるまで、少女を突き放すこともなく、
抱きつかれたまま、その場に立ち続けている。

「・・・っひぐっ・・・あり、ありがど・・・っう・・・っ。えぐっ。ごべん、なざっ・・・ごべんなざっ、いっ・・・。」

勝手にしゃくりあげる喉が、声を発することを拒絶しているようで。
それが情けなくて悲しくて。ますます涙が止まらなくなる。

抱きついた蜥蜴の腹は、暖かかった。