博士はトラックを運転する彼らと自発的に話をする気は無いらしく、必要最低限の会話をするだけだった。
途中休憩のほかにも2、3度停車し、燃料や物資の補給を行って、他のトラックとも合流した。
どうやら、彼らの仲間が補給の為に待機していたらしい。
日に3度、博士にも飲用水と食料が差し入れられた。
僕にそれを成分分析させている博士をみても、彼らは何も言わなかった。
信用されていないのは承知の内なのだろう。
博士は提供された食料の中から保存の利かないものだけを食べ、後は自前の食料を食べた。
こちらにだって食料消費のスケジュールはある。食べずに腐らせたりしたらもったいない。
とはいっても返すのももったいないから、リュックとバックパックに詰め込んで保管している。

食料の整理整頓のコツは消費期限順に並べることだ、と、何時だったか博士は言っていたけれど、それが机上の
空論ではなくなった所をあまり見た事が無い。
なんだかんだで、困窮極まっている状況以外では、気を付けているつもりでも、好きなものを先に食べてしまってい
るからだろう。
僕の記憶だと奥の方で『人参味だった何か』が消費期限を超越し、現在進行形で朽ち果てている筈だけれど、未
だ、見て見ぬ振りだ。
野菜を残す癖は、どうすれば改善されるのだろうか。


幌の隙間から吹き込んできた砂埃を、博士が払い落としている。
自分の白衣をばさばさと振って砂を落とし、次いで、僕の装甲に付着した砂を掃い落としてくれた。
外の様子はここからは見えないし、衛星とリンクして位置を特定する事も出来ないけれど、方位からして、どうやらト
ラックは大陸中央部へと向かっているようだ。
僕らは中央の砂漠を抜けて移動してきたから、多少方角は違うけれど、逆戻りしている事になる。
こうしてトラックに揺られていると、なんとなく、その砂漠越えの時を思い出す。
でも、今度はリンゴの木箱が僕の上に崩れ落ちてはこないし、敵に追われてもいないし、博士が僕の傍に居る。
後は、博士と自由に会話できて、運転をしているのが訳の分からない輩でなければ快適なのに。
肩を落とす代わりに触角を下げ、ため息をつく代わりに少しだけ頭部を俯かせ、睨み付ける代わりに訳の分からな
い輩へと意識を向けた。

しかし、果たして、博士に協力して欲しいと申し出てきた彼らは、僕らの味方になり得るのだろうか。
僕以外の、博士の味方に。
それならば、敵が増えるより余程いい。
良い事の筈だ。
なのに何故だろう。

僕はそれが、とても不安だった。

明確には答えが出ない。
博士にとって良い事な筈だというのに不安を感じる理由が、解らなかった。
何故なのだろうか。
僕は、どう、すべきなのだろうか。



僕のそんな悩みなど意にも介さず、トラックは揺れ、目的地へと向かう。
博士は他にすることもないらしく、また歌っている。

どなどなどぉーなぁーどぉーなぁー

また、荷馬車が揺れていた。
この曲も僕は知っている。
しかも今度は、荷馬車同様、音程もガタゴトと大いに揺れていた。
このままでは博士の自尊心を大いに傷つける可能性のある発言を誰かにされかねない。
それを回避するためには細心の注意を払ってそれとなく指摘しなければならないのだろうけれども、只の兵器が歌
唱指導をする訳が無い以上は何も言えず、只々、辛うじて歌詞から原型を推測することが可能な歌を聴き続けた。

・・・悲しそうな眼をして見ていれば、伝わるだろうか。

そんな下らない事を考えたりもしたけれども、悲しいかな、僕には悲しそうな眼をする機能が搭載されていない。


ああ全く、僕は、どう、すべきなのだろうか。










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