数時間後。
夕刻は既に過ぎ去り、夜の帳が下りていた。
合流した彼らは僕を幌の付いたトラックの荷台に乗せるよう博士を促す。

「そのデカブツはトラックの荷台に乗せてくれ。俺とボリスが交代で運転するから、君は助手席に乗るといい。レディ
ーは大切に扱わないとね。」
「いいえ。私も荷台でいいわ。」
「そうかい? ・・・まあ、まだ信用されていないってのは分かるさ。荷台が辛くなったらいつでも言ってくれ。」

我々を信用しきれないなら、武器を構えたままでもいいとも言われた。
そんな事を言われた所でちっとも信用に足るものでは無いし、言われなくともそのつもりだ。
使用せざるを得ない状況を作る気なんて更々無いけれど、万が一を考えての抑止力として、博士にもハンドガンの
一丁くらいは持たせたかったけれど、生憎と、戦場で兵隊から鹵獲したハンドガンの中身は空っぽで、規格の合っ
た弾の持ち合わせも無い。
アサルトライフルならあるけれど、そんなものを博士に振り回させるのは逆に危ない。

トラックは動き出し、丘の上にある別荘地の廃墟が、遠ざかってゆく。
短い時間だったけれど、あの暖かな日差しの中で過ごした暖かな時間さえも置いていってしまうような気がして、
初めて、あの場所に戻りたい、と、思った。

次はいつ、博士に、あんな時間を過ごさせてあげられるのだろう。


話によると、目的地まで数日は掛かるらしい。
運転の必要が無いので、只只、ひたすらに、延々と、センサーで警戒に明け暮れるしか、やる事が無い。
というよりも、やれる事が無い。
なにしろ今の僕は、物言わぬ兵器、として振る舞わなければならないのだから。

トラックの荷台に載った僕の背中に博士が乗っている。
荷台に一緒にいられるのは嬉しいけれど、ちゃんとした座席のある助手席に座って欲しい気もする。
ここからでも奴らの動向は全て見て取れるし、何かしようものなら、荷台からフロントガラスにかけて、大きな風穴を
あけてやれるのだから。


博士の負担を軽減する為、せめてこれぐらいならばれないだろうと思い、トラックの揺れに併せてバランスをとり、博
士が揺れないように気を配る。
幸いにも彼らの運転はさほど下手ではないようで、揺れを吸収するのは楽だった。

らくからーちゃらくからーちゃ、と、博士が小さく調子外れに、荷馬車が揺れる歌を口ずさんでいる。

博士に色々と聞きたい事があるのに、聞けない。
話したい事だってたくさんあるのに、話せない。
何故彼らを信用する気になったのか。
それとも本当は信用していないのか。
彼らが何者なのか聞かなくてもいいのか。
罠だったとしてどう対策するのか。
彼らをぶっちめて情報を聞き出すという選択肢も合ったのではないか。
博士が歌うのは珍しい。
その曲は知っているけれど、らくからーちゃとは一体何の事なのか聞いた事が無かったのを思い出した。
らくからーちゃが何なのか僕は知らない。
博士は、知っているのだろうか。
当たり前の事だけれど、博士は僕の知らない事を沢山知っているのだから、きっと知っているのだろう。

まだ博士は歌っている。
僕は無言で、触角にも似たセンサーを、歌にあわせてちょっとだけ揺らしてみた。
一緒に歌えているような気分がして、少し楽しい。
暫くの間そうしていたけれど、曲本来のリズムから歌が外れたときに触角が狼狽えたら、無言で拗ねられた。

理不尽だ。









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