反撃、繁劇

『コロス』
「ひゃあっ! 危なっ! 当たったら危ないでしょ!?」

状況を把握しているのかしていないのか、間の抜けたような言動をしながらも的確に銃撃を避け続けている。
その隙に私は目的のものを探し出し、準備を進めたが、さして時間はかからなかった。

「準備が完了した。そいつをこちらに誘導しろ。」
「え? よく分かんないけど、わ、分かった!」

目標地点までの距離、50、30、20・・・

「今だ、伏せろ。」
「え!? な、なに!? 今、何投げたの!?」

次の瞬間、轟音とともに火柱が奴を包んだ。
ガソリンを用いた即席爆弾。もとより準備こそすれ、結局使用することなく放置していたものだったが、うまく作動し
たようだ。
下手に入手困難な材料を用いずとも、爆薬程度ならば簡単に作成出来る。
だが、試しに作ってみたはいいものの、使い勝手が悪い上に使いどころが無く、結局はお蔵入りせざるをえなかっ
た代物だ。

忠告を聞かずに立ち呆けていたあいつが、走っていた勢いそのままに、爆風でこちらに吹き飛んできた。
その勢いと、機体の損傷による機動力の低下により、避けられもせず、そのまま受け止めてしまった。
「おい、お前まで吹き飛んでどうする。」
声を掛けるが返事は無い。
外傷は皆無であり、どうやら、衝撃で気絶しているだけのようだ。

これは、好機だ。

殺害ターゲットは気を失い、妨害要素は半ば活動停止状態に陥っている。
粗暴に襟首を掴んで体を支えようとも、銃口を額に押し当てようとも、目を閉ざしたまま、意識を取り戻す気配はな
い。

『コ、ロ・・・ス・・・』

奴が、全身を真っ黒に炭化させた状態で足下へとにじり寄り、あいつの足を掴んだ。
この程度の機動力、出力しか残っていないのならば、奴は障害足り得ない。
殺害を実行する上で、任務を遂行する上で、何ら障害にはならないという結論に達していた。

しかし私は、突如として発生した得体の知れない衝動に突き動かされ、額から、足を掴む炭化した腕に照準を変
え、撃った。

損傷を受けて破損しかけている銃身で、幾度も幾度も執拗に撃ち込み、炭化した偽装皮膚を砕き、比較的耐久度
の低い関節部分を狙い、手首を撃ち抜いた。
腕と手首が分離したのを確認し、奴を蹴り飛ばした。
損傷を受けた脚部では数メートル蹴飛ばすのが限界で、しかも右膝の損傷は今にも千切れ落ちそうなまでに悪化
した。


最も優先すべきは、何よりも任務の遂行である。
今が絶好の機会であり、これを逃せば次はいつ、このような好機が巡ってくるか分かったものではない。
にも関わらず、私は銃口を、あいつから逸らした。
不可解だ。実に不可解で、理解不能な行動だ。


だが、いかなる外的要因も、その判断に関わっていない。
その不可解で理解不能な行動を実行したのは、他ならぬ、私自身である。










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