帰路 河川敷に先程の爆発で警察や野次馬が大勢集まっていたせいで、見つからずに帰宅することは非常に困難であ ったが、なんとか成功した。 一度現場に戻ったあいつが、野次馬や警察関係者にそれとなく状況を尋ねてみたところ、どうやら早朝ということも あり、犯人の目撃証言は無かったらしい。 私や奴から欠落した偽装体表組織は、機体から分離した段階でナノマシンによって瞬時に分解され、物的証拠と して残る事は無い。 ただ、近所の住人の証言で、あの家から大きな物音がしていたというのを聞いた警察が訪ねてきたが、ゴキブリが 出て大騒ぎしていたのだと言って誤魔化した。 何故そんな言い訳が通じるのか全くもって理解不能だが、警察官は帰っていった。 恐らく、年端もいかない小娘が爆破事件などに関わっているなど、思いもしなかったのだろう。 警察官が来た際、万が一を考え、発見されて困りそうなものは納屋と押入に押し込まれた。 無論、私も含めて。 未来の証明 「ふうー・・・、なんとか無事にやり過ごしたね。あの女の人も、警察も。」 「無事とは言い難い。押入れの収蔵物が頭上に崩れ落ちてきた。」 「・・・ねえ、なんでさっき、あんなこと聞いたの?」 「あんなこと、とは、何のことだ。」 「わたしが、死ななきゃならない理由。」 「任務遂行の為に入手しておくべきデータだと判断したからだ。それと・・・」 「・・・それと?」 「お前も、知りたがっていたではないか。」 「え、あ、うん。そう・・・だね。」 でも、本当は、本当の本当は、真っ先に聞きたいことはそれじゃなかったんじゃないかなって、思った。 だって、多分あの女の人は『次』で、『次』が来ちゃうって事は、それはつまり、このままだと、そういうことになっちゃ うんだから。 もしかしたら、聞きたくないから、聞かなかったのかもしれない。 任務が存在意義だと、前に言っていた。 だから、認めたくないのかもしれない。 「ねえ。」 「何だ。」 「わたしを殺した後、あなたはどうなるの?」 「お前の死亡を確認した後、詳細報告の為、未来へと自動的に送還されることになっている。」 「そっか。」 「そうだ。」 「未来に、帰りたい?」 「意志の介在は重要では無い。帰還は必然であり、それもまた任務だ。」 「そっか。・・・だったら・・・。だったら、さ、」 「わたし、殺されてあげてもいいよ。」 来るかもしれない『次』の未来を、認めなくてもいいように。 人生終了、延期のお知らせ 「・・・本格的に脳組織が崩壊したのか?」 「違うよ、なんかこう、殺されてあげてもいいかなー、って。」 「ならば、何かの罠か。」 「違うって。」 「自己保存の欲求が高いのでは無かったのか?」 「それはもちろん、そうだけどさ。」 「矛盾している。」 「だって、あんなに頑張ってたんだし・・・。」 あんまりだといえば、あんまりだと思ってしまったのだ。 わざわざ過去まで来て、あんなに頑張っていたのだから。 「もとよりお前の意志など関係は無いが、まあいい。抵抗しないと言うなら、速やかに実行しよう。」 「あ、待って待って、死に方くらいは選ばせてよね。」 「・・・面倒だな。どうすればいいというのだ。」 「その手のレーザーみたいのでさ、頭ばしゅーってやったら、一瞬で楽になれるかな? 痛いの、怖いし。」 「問題ない。即死可能だ。」 「じゃあ、それでお願いね。」 「だが、現時点では不可能だ。」 「何で?」 「戦闘の影響で破損が著しい。通常の状態で稼動させることすら困難だ。」 「手、動かなくなっちゃったの? 大丈夫?」 「問題無い。時間は掛かるが、自己修復機能可能な範囲だ。」 「そっか。」 「そうだ。」 「じゃあ、それまで待っててあげる。」 決めてしまえば、あとはあっさりとしたもので、何の意味もなく生に執着していたのが馬鹿らしくなるほどに清々し い。 なんのことはない、死んでほしいというのだから、死んであげればいいではないか。 未来の誰かの邪魔になるとか、そんな事はどうでもいいけど。 最後に、任務が達成できたときに、ちょこっとでも感謝してもらえれば御の字だ。 しかし、ふと、考え込んだ。 ・・・なぜ、感謝されたいのだろうか? 蛇足 「足、もしくは凶器を用いればすぐにでも殺害は可能だが。」 「痛いのはいやだし、足はもっといや。」 何はともあれ、奇妙な日常は続いてゆく 遠くない未来、少女の命が尽きる日まで 次 前 戻 |