完了と遂行と

「・・・治った?」
「再構成は完了した。」
「じゃあ、身辺整理も準備も済んでるし・・・殺していいよ。」

「・・・プラズマガン、エネルギー充填完了。」
「お別れだね。」
「そうだな。」
「こんなこと言うのは変かもしれないけど・・・未来でも、元気でね。」
「・・・ああ。」
「あれ? いつもだったら、その表現は適切ではない、とか言うんじゃないの?」
「そうだな。」
「まあ、いいけど。・・・ほら、任務任務。」
「うむ。・・・殺害を、実行する。」


「・・・何故だ。」
「わたしが聞きたいよ。」
「この距離で。」
「ゼロ距離だね。」
「何故外れた。」
「もう一回、やってみよっか。」
「うむ。」


「・・・もしかして、わざとやってる?」
「そんな筈はない。」
「じゃあ、なんで撃つ瞬間に手を逸らすの?」
「そんな筈はない。」
「じゃあ、何か別のもの狙ってみてよ。えーと、あの空き缶とか。」


「当たったね。」
「当たったな。」
「じゃあ、なんで?」
「これは何らかのエラーである可能性が高い。」
「治る?」
「・・・自己診断の結果、異常は皆無だ。」
「どこが悪いかわかんないって事?」
「恐らく、そうだ。」

「そうだ、こうすればいいんじゃないのかな。」
「何のまねだ。」
「わたしがこうして、あなたの手を握って固定してるなら、外れないでしょ?」
「確かに、それならば確実だ。・・・撃つ瞬間に、こちらに向けたりしないだろうな。」
「しないよ。」


「・・・まだー?」
「エネルギーの充填が解除された。」
「どういうこと?」
「エネルギーの供給システムに、何らかの異常が発生した可能性がある。」
「大丈夫なの? それって。」
「実に不可解な事象ではあるが、安全性においては問題ない。」
「そうなの?」





扼痕

よっぽどフカカイだったらしい。
まだジコシンダンとかいうのを続けているのだろうか、さっきから身動き一つしない。
どうすればいいんだろうか。
わたしが死にかたにこだわらなければいいのだろうか?
でもやっぱり、痛いのは嫌だし、苦しいのも嫌だ。
しかし、選り好みしていても、らちがあかない。
ここはてっとりばやく、例えばそう、首を

首、を・・・?


突然の、フラッシュバック。
黒い影。首。手。痛い。苦しい。寒い。暗い。恐い。
忘れていたのに。忘れてはいけなかったのに。忘れてしまっていたのに。忘れることができたのに。
あのとき感じた感覚が、一瞬で、鮮明に蘇った。

「ひっ・・・・・・!」

「どうした。」
「あ・・・ううん、何でも、ない。」
「そうか。」

「・・・ごめん、やっぱりちょっと。」
「何だ。」
「わたしの死因、変更してもいいかな。」
「おとなしく殺害されるなら何でも構わないが、どのように変更するのだ。」


「えっと、ね。・・・わたしが、死ぬはずだった方法に。」


「・・・それは一体、どういった方法だ。」
「難しくないよ。こうやって、両手を首に当てて?」

わたしの手よりもずっと大きな手をとり、喉元に当てた。
背筋がぞくりと震え、僅かばかりの不安の後、不思議と安心感がわいてきた。
人間に似せるために意図的につくっているという体温が、肌に染み込んでくる。
わたしよりも、あたたかい。
触れている指先が、少しだけ動いて喉をなぞった。

「薄い、痣があるな。」
「・・・うん。」
「死ぬはずだった、とは、過去にこのような方法で死にかけたという事か。」
「・・・わたしだけ、息を吹き返しちゃったから。」

だれもかれもいなくなってしまったあの時とは違う。
見つめられることに、触れられることに、なぜだか心臓が高鳴る。

・・・ああ、そっか。やっぱり。

忘れてしまっていた、思い出したくもなかった思い出が、塗り変えられていく。
変だとは、わたしも思う。
だって、思い出してしまった記憶の中の影も、今、首に手を当てている相手も、どちらもわたしを殺そうとしているの
に、今は、まるで恐怖心をどこかに忘れてきたかのように、怖くない。

「わたしがあのとき死んでたら、あなたもこんな面倒な目にあわなかったのにね?」
「任務が果たせるのならば、何も問題は無い。」
「そう? だったら、いいけど。」

痛いのはイヤだ。苦しいのもイヤだ。
だけれども、最後の最後で気づいてしまったこの感情は、痛くて苦しくて。
だけれども、なぜだかそれはとても幸福な感情で。
この幸福の中で、腕の中で、手の内で、死ねるのだから。
だからきっと、これは幸福な事だ。
・・・その先はないと、分かっていても。


「後は、わかるよね? ・・・そのまま、手に力を入れて。」
「うむ。」

「・・・まだ?」
「実行している。」
「え?」
「出力が上昇しない。」
「ええ?」
「・・・どういう事だ。」
「わたしが聞きたいよ。・・・じゃあ試しに、この練りわさびチューブ、ぎゅーって握ってみて。」
「ふむ。」

「問題無いな。」
「問題ないね。・・・あ、このわさびどうしよう。」

「両腕の制御系にエラーが発生しているようだ。」
「・・・また?」
「異常は見つからない。」
「ほかにはどこも異常無い? 大丈夫?」
「機体に異常は見られない。損傷箇所は完全に修復、再構成されている。」
「そっか。」
「だが、このままではエラーの原因が解明されるまで、お前の望んだ死因での殺害は不可能だ。」

「・・・それでも、わたしがお願いしたやりかたで殺してくれるの?」
「そうでもなければ、お前は大人しく殺害されないだろうと判断した。」
「・・・ありがとう。」

「感謝など、不要だ。」










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