密着24時

「何のつもりだ。」
「そっちこそ。」
「私は何も実行していない。」
「した。」
「何をだ。」
「なんで、納屋に戻っちゃってるの?」
「リビングに居る意味など無いからだ。」
「そんなことないよ。」
「ならば、どういう意味があるというのだ。」
「え。あ、そ、れは、その・・・。」
「返答が不可能ならば、先にこちらの質問に答えろ。何のつもりで、納屋に入ってきた。」
「殺してもらうつもりで。」
「エラーの解析、及び解消は終了していない。現時点での殺害実行は不可能だ。」
「真っ暗だったらさ、大丈夫なんじゃないかな。だってわたしが見えないでしょ?」
「暗視機能を切れば、確かに視認は不可能だ。」
「わたし以外のものは、ちゃんと撃ったり絞めたり出来るんだから、見えなきゃ大丈夫なんじゃないかなって。」
「ならば、殺害を実行しよう。」

「・・・やっぱ、だめ?」
「やはり、エラーだ。」
「首くすぐったい。」
「今はその程度の出力しか出ない。」
「それじゃ、しょうがないね。」
「おい、しがみつくな。」
「眠くなって・・・きちゃった・・・。」
「ならば部屋に戻れ。」
「なんか、こうしてると・・・ほっとする。」
「生命を脅かす存在が側にいる場合、通常の思考ならば恐怖を感じるのではないのか。」
「・・・そう・・・だね・・・。」
「・・・おい。」
「すぅ・・・すぅ・・・。」
「何故、眠る。ここはお前の部屋ではない。起きろ。」
「・・・すー・・・。」
「何故起きない。眠りが浅いのでは無かったのか。」
「・・・・・・むにゃ。」


「・・・何故私は、ふりほどく事が出来ない・・・。」
「すぅ・・・・・・。」
「・・・何故私は、この状況を打開しようとしない・・・。」
「・・・むにゃ。」

「・・・・・・何故だ・・・・・・。」





寝起きドッキリ

「う・・・ん?」
「目が覚めたか。」
「え、あ・・・お・・・おはよう。」
「うむ。」
「わたし、ここで寝ちゃってた?」
「うむ。」
「・・・しがみついたまま?」
「うむ。・・・何故、心拍数が跳ね上がる?」
「いや、うん、色々とね、うん。」
「何故、返答が不明瞭なのだ。」
「え、あ、か、勘弁してよぉ。」
「何故だ。」

「・・・何で食い下がるのよぅ。」





コツがある

「ねえねえ。」
「何だ。」
「頭叩いたら治ったりしない?」
「非合理的だ。」
「だって、テレビとかなら叩けば治るじゃない。」
「原始的な機械と一緒にするな。それに、お前の力では加減を間違えて頭部を吹っ飛ばされかねん。」
「あ、こわいんだ?」
「私に恐怖などという残存性を優先するような感覚は搭載されていない。不要なのだからな。」
「じゃあいいよね。」
「お前は私の話を一つも理解していないのか。原始的な構造の機械と私とでは昆虫と哺乳動物ほどの内部構造の
差が」
「せえーのっ!」
「待て、話を聞」

「ごめん。」
「もういい、もう何も言わん。」
「ごめんってば。」
「お前に何を言おうと無駄だ。」
「・・・ごめん。」
「お前は私がいずれ殺すのだ。謝罪など不要だろう。」
「・・・ありがとう。」
「感謝は、それ以上に不要だ。」





曖昧三戦地

「もー! こうなったらもう死因なんて何でもいいよ!」
「それでいいのか。」
「・・・だめなの?」
「死にたくないと言い、殺してくれと言い、死因に拘り、最終的にその思考に行き着くのか。」
「わたしにとっては結論だけど、あなたにとっては振り出しに戻っただけなんじゃないの?」
「それもそうか。」
「そうだよ。」


「・・・失敗だな。」
「だねー・・・、というか、逆にすごいんじゃないのかなあ。」
「凄いのか。」
「だって、漬け物石を勢いよくふりおろして、寸止めだよ?」
「ふむ。撲殺以外の方法を模索したほうが良さそうだ。」
「なるべく、痛くない方法でね。」
「難しいな。不自然な死というものは多かれ少なかれ、苦痛を含むものだ。」
「難しいね。」





学級文庫

「色々試したけど、だめだったね。」
「うむ。」
「さっきのあれはイイ線いったとおもったんだけどー。」
「そうだな。」
「・・・ねえ。」
「何だ。」
「なんで、くやしそうじゃないの?」
「高度な感情プログラムなど搭載しても、任務の妨げでしかない。」
「ふーん?」
「・・・何をする。」
「スマーイル。」
「口を引っ張るな。」
「変な顔ー。」
「遊ぶな。」
「・・・怒った?」
「怒ってなどいない。」
「そっか、よかった。」
「そういう意味ではない。強調された感情表現をする事が無いだけであって、先程のお前の行動は、一般的な精神
構造を持った人間が怒りという感情を構成するのには十分な行為だ。」
「あ、怒ってる。」
「怒ってなどいない。」
「よかったよかった。」
「・・・それは先程の説明を理解した上での発言か?」
「だって怒ってないんでしょう?」
「怒ってなどいない。」
「ならいいじゃない。」

「・・・もしや、からかっているのか。」
「あ、バレた。」





フラグ? なにそれおいしいの?

「おはよう。」
「うむ。」
「今日もいい天気だね。」
「天候は快晴、降水確率は0%だ。」
「死ぬにはいい日、ってやつかな。」
「その判断基準は何だ。」
「あ、でも、雨の日に死んじゃうのも、なんかセンチメンタルでいいかも。」
「結局、いつでもいいのではないか。」
「あなたがちゃーんと、殺してさえくれるならね?」
「お前を殺害するのが私の任務だ。殺さない訳が無いだろう。」
「そうそう、その意気その意気。今日もがんばろー!」
「これから死ぬ人間の台詞とは到底思えない台詞だな。」
「それじゃ、朝ご飯食べよう。今日のお味噌汁は自信作だよ。」
「・・・うむ。」





告白、酷薄

「やはり、不可解だ。」
「何が?」
「これまで、お前が素直に殺されるというのならば問題は無いと結論付けてきたが、やはり、あまりにも不可解
だ。」
「それで?」
「お前は私のシステムに介入して意図的に欠陥を生じさせ、生命が損なわれないということを確信して行動してい
るのではないのか。」
「してないよ。っていうか、そんなどうやったら出来るのかすら分からないこと事出来ないよ。」
「ならば何故だ。何故、自己保存の欲求を捨て、死を受け入れた。」
「なんで、って・・・、何なの、いきなり。いままでそんなこと聞かなかったでしょ?」
「回答しろ。任務が実行できない以上、出来る限りの情報を収集することが重要だ。」
「尋問だー。」
「殺害行動が出来ないと確信しているとしても、これならば、回答するしかあるまい。」
「そ、それは冷蔵庫のコード・・・!」
「殺害は出来ずとも、このコードを切断する事は出来る。」
「や、やめて・・・! それだけは、それだけはダメっ! お刺身が腐っちゃう!」
「ならば答えろ。早く答えなければ、冷蔵庫がどうなるか・・・。」
「や、やだっ! 言えないっ!」
「ふむ、やはり、答えることの出来ない不都合な何かがあるのだな。・・・言え。お前は何故、死を拒む事をやめ
た。」
「い、言えないってば! なんでそんないじわるするの!」
「意地悪などでは無い。任務の一環だ。」
「う・・・。それなら、言うけど、さ。」
「何だ、また何か条件があるのか。」
「リカイフノウだとか、フカカイだとか、言わないでよ?」
「うむ。」

「じゃあ、言うけど。・・・実は・・・わたし・・・」


「・・・・・・・・・。」
「・・・なんで無言なの?」
「特定の発言を制限させたのはお前だろう。」
「それ、言ってるのとあんまり変わらないよ。」
「そうか。」
「そうだよ。」
「ならば発言しよう。不可解で、理解不能だ。」
「いいよ、それで。」
「いいのか。」
「うん。だって、殺してくれるんでしょう? それでいいんだよ。」
「・・・理解不能だ。」

「うん。そうだね。」



そう言っていつものように、へらっと笑った。
相も変わらずの、緩みきった間抜け面だ。










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