5. 機真面目、来る



労働機準

「ねえ。」
「何だ。」
「アルバイト、まだ続けてるの?」
「無論だ。」
「スナイパーライフルとか、買う必要、もう無いのに?」
「この国に勤労の義務というものが存在する以上、学生ではない人間が就労していないという事は不自然な状況
だ。任務の長期化が予測される状況下において、不自然さによって私の正体が露見しない為に必要な行動だと判
断した。給与そのものに必要性は無い。お前に譲渡する。」
「そっか。えーと・・・がんばってね!」
「任務遂行の為に必要な行動だ。言われずとも最善を尽くすまでだ。」

「(別に、主夫かニートでもいいのになぁ・・・。)」



機真面目な日々

「あ、機真面目先輩ー。」
「・・・。」
「ちょっ、聞こえてるっすよね機真面目先輩! 返事くらいしてくださいっす!」
「機真面目・・・正式な名称ではないが、それは、私を指した呼称なのか。」
「いやぁ、だって先輩の名前覚えづらいじゃないですか! あだ名で呼んでも構いませんよね、機真面目先輩。」
「言葉のニュアンスが、本来のものとは異なっているようだが。」
「だって、みんな言ってますよ、機械じみてるくらいに真面目だから機真面目って。あ、別にけなしてる感じのあだ
名じゃないし、いいっすよね?」
「それを容認する事で私に何らかの不利益が生じる事がないならば、構わないが。」
「・・・要するに、別に構わないって事っすかね。(・・・なんか、変わった人っすね。)」



She

「機真面目先輩、機真面目先輩。」
「何だ。」
「いつも来るあの女の子、ひょっとして彼女すか?」
「彼女とは、女性を指す代名詞だが。」
「いやそういう意味じゃなくて。付き合ってるんすか? って聞いたんですけど。」
「付き合う、とは。交際上の必要から相手をすることだが。」
「なんか話がかみ合ってない気がするんすけど・・・。で、実際問題、交際してるんすか?」
「交際、という行動に関して いらっしゃいませ。」
「らっしゃっせー!」
「あ、ちゃんと仕事してるね。関心関心。」
「また、おでんなのか?」
「いつも通り、がんもどき3つね。」
「220円になります。ポイントカードはお持ちでしょうか。」
「はーい。」
「220円丁度頂きます。ポイントカードをお返しいたします。ありがとうございました。」
「一個いる?」
「不要だ。」
「今日のシフトはいつも通りなの?」
「うむ。」
「ん、わかった。じゃあねー。」
「ありがとうございました。」
「あっざっしたー!(彼女以外の何者でもないっすね。うん。)」



命運命

「あーあ、先輩がうらやましいっすよ、かわいい彼女がいて。・・・一体何処で知りあったんすか?」
「私があいつと出会う事は決定されていた必然であり、私はあいつに出会うべくして存在している。・・・それだけ
だ。」
「(やだ、なにそれかっこいいっす。)」



前のバイトはガソリンスタンド

「いらっしゃいませ。」
「らっさっせー!」
「ありがとうございました。」
「あっざっしたー!」
「・・・以前から思っていたのだが、その挨拶は何処の国の言語だ。」
「え、日本語・・・っすけど・・・?」
「言語解析中枢がその挨拶を標準的な日本語として認識しない。改善を要する発声方法なのではないのか。」
「は、はぁ。気ぃつけるっす。(よくわかんねっすけど、言葉遣いに厳しい人、なんすかね・・・?)」



すれちがい

「いらっしゃっせー。」
「・・・あれ・・・?」
「先輩なら奥で別の仕事してますけど。」
「え、あ、・・・えと・・・おでん、ください。」
「なんになさいますか。」
「がんもどき・・・あ、えっと・・・やっぱりやめます。」
「あ・・・。ありがとうござっしたー。・・・帰っちゃったっすね・・・。」
「・・・今、あいつの声が聞こえたが。」
「ああ、今来てましたよ。もう帰っちゃいましたけど。」
「・・・そうか。」
「・・・先輩、なんか機嫌悪くないすか?」
「そのような精神状態に陥る理由も必要性も存在しない以上、そんなはずがあるわけがない。」
「そ、そっすか・・・。(絶対怒ってるっす。無表情なのになんか怖いっす。)」
「・・・がんもどきの数量が、減っていないようだが。」
「がんもどき、買わずに帰っちゃったっすよ。」
「・・・そうか。」
「・・・。(なんか、心なしか嬉しそうっすね。無表情っすけど。)」

「あ・・・先輩、今日はもう上がりの時間っすね、お疲れさまっした。」
「うむ。」
「・・・何すか? レジの前になんて立って。」
「がんもどき、3つだ。」
「・・・220円になります。ポイントカードはお持ちでしょうか。」
「所持していない。」
「お作りいたしましょうか。」
「不要だ。」
「・・・220円丁度頂きます。ありがとうございました。」

「・・・何だ、その顔は。」
「いや、なんか微笑ましいっつーか、なんっつーか。」
「日常的に摂取しているがんもどきを摂取しなかった事によって万が一奴が餓死すれば私が困る。それだけの事
だ。他意などない。あるはずがない。」
「・・・なんも聞いてねぇっすよ。(まさかのツンデレ・・・!?)」



みこんのだんじょ

「いらっしゃいませ。」
「らっしゃいませー。」
「がんもどき、3つだな。」
「ううん、今日はいらない。」
「・・・どういうことだ。」
「今日は、うちでおでん作るからね。」
「・・・成る程。だが、それならば何故わざわざ入店した。」
「見に来ただけ。」
「・・・そうか。」
「早く帰ってきてよ、おでん冷めちゃうから。・・・じゃあねー。」
「うむ。 ありがとうございました。」
「ありがとうござっしたー。(ど、同棲・・・!?)」



ぼくアルバイトォォォオオオ

「いらっしゃいませー。」
「おい、金を出せ!」
「ひぃっ!? こ、コンビニ強盗ぉおっ!?」
「騒ぐんじゃねぇ!! 殺されたく無きゃ、黙ってレジの金を出せ!」
「わ、わっかりましたぁっ!」
「・・・なにやら騒がしいが、何かあったのか。」
「っ!! もう一人いやがったか・・・!!」
「うわわっ、逃げた! えっと、えっと、ああっ! カラーボール! カラーボール投げてください機真面目先輩!!」
「この球体を、今逃走した人間にぶつければいいのだな。」
「で、でも、もうあんな遠くまで逃げられちゃったし、当たんないっすよ・・・!」
「照準誤差修正、目標補足。・・・投擲。」
「こんな距離で投げたって当たるわけが・・・・・・当たったぁあっ!?」
「目標の頭部を直撃。・・・衝撃で気絶したようだな。」
「警察に連絡しましたっす! ・・・んにしても、あんなに遠いのに当てるだなんて・・・。あ、も、もしかして先輩・・・!」
「む・・・。(もしや、正体が露見したか。・・・ならば、何らかの対応を・・・)」

「もしかして、先輩、元野球部すか!?」

「・・・やきゅー、ぶ?」
「野球部っすよ野球部! それともソフト部っすか!? すっげーピッチングだったっす!!」
「・・・うむ。まあ、そんなところだ。(・・・只の馬鹿か。無用な試案だったな。)」



あるバイトは見てた

「いらっしゃいませ。」
「あれ・・・? ・・・一人なの?」
「奴は奥で別の作業をしている。」
「そっか。」
「・・・気になるのか?」
「え、なんで?」
「いや、問題無い。・・・がんもどき3つでいいのか。」
「・・・ううん、4つ。」
「294円になります。ポイントカードをお預かりいたします。294円丁度頂きます。ありがとうございました。
・・・何故、4つなのだ。」
「バイトがんばってるから、一個あげる。誰もいないし、はい、あーん。」
「不要だ。加えて今現在、業務中だ。」
「・・・ちぇっ。」

「(女の子の『あーん』を断るとか、あり得ないっす! もったいないっす、機真面目先輩・・・!!)」










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