偽装表示

「先輩! 先輩を漢と見込んで頼みがあるっす! 困ってるんす! かわいい後輩の為だと思って聞いてほしいっ
す!」
「・・・用件があるならば、簡潔に述べるべきだ。」
「あ、はい。実は明日、ウチの親がちょっと様子を見に来るって言うんで、先輩に、コレを預かってほしいんす。アパ
ートには隠し場所が無いんす、一日だけで結構っすから・・・!」
「これは・・・データ保存用のディスクのようだが。」
「こういうの、いくらタイトルをカモフラージュしてごまかしても、見つかるときゃ見つかるんすよねぇ・・・。先輩も男な
ら分かるっすよね。」
「・・・その事項についてはよく分からないが、これを一日、保管すればいいのか。」
「っす。預かってくれるんすか! 恩に着ます!」
「就労環境を維持する為に必要な人間関係を保つという行動において、必要な責務だと判断した。」
「よくわかんねっすけど、あざっす! 機真面目先輩! ・・・あ、お礼代わりっちゃなんっすけど、中身、見ても別に構
わないっすよ。」
「・・・ふむ。」



D V D

「ただいまー。」
「うむ。」
「あれ? 珍しいね、DVDなんて観・・・え、う、えええっ!?」
「何だ、その奇妙な声は。」
「それ、な、なに、観て・・・!?」
「ふむ。このDVDは後輩から預かってくれと言われたものだが・・・パッケージに手書きで記載されているタイトルと、
内容が異なっているようだな。」
「えあ、あ、ああ、お、男の人だもんね、それくらい観るよね、別に、き、気にしないからね・・・って、あ、あれ? で
も、でも・・・あれ? あれ?」
「何故、動揺している。」
「・・・なんで、そんなの、みてるの?」
「閲覧の許可は得ている。より多くの情報を収集する為にも、必要な行動だと判断した。」
「そ・・・そっか。うん、じゃあ、も、もうじゃましないからね。わたし、自分の部屋に行くからね。」
「待て。」
「な、何?」
「この記録映像には不可解な行動が多い。この特殊な行動の必要性について、解説を要求する。」
「・・・っ。」



もたざるもの

「はよざいますっす、先輩。」
「うむ。」
「・・・どしたっすか、その顔。」
「・・・問題無い。この程度ならば、明日には再構成が完了する。」
「いや、どうしてそんな包帯ぐるぐる巻きなんすか?」
「・・・説明が、必要なのか。」
「えーと・・・できたら、お願いしたいっす。」
「貴様から預かった映像記録ディスクを再生して観賞していたのだが、あいつがそれを見て突然奇妙な言動と行動
をとり始め、最後には錯乱状態に陥り、私の頭部と部屋の中のものを破壊した後、部屋に籠もってしまった。」
「そ、そりゃ、なんか悪いことしちゃったっすかね・・・。でも、それくらいでキレるようなコには見えなかったっすけど
ー・・・。」
「錯乱しながら、『そんなの、無いって事くらい自分でもわかってるのに、そんなの見ちゃったら、よけい惨めになる
じゃない・・・っ!』と、発言していたな。」
「あー・・・。(巨乳モノは、マズかったっすか・・・そういえば、慎ましかったっすもんね・・・。)」



籠城戦

「・・・何故、部屋に籠もっている。」
「・・・。」
「質問に答えろ。」
「・・・。」
「謝罪すべきだという意見を受けた。謝罪行動をとれば、部屋から出てくるのか。」
「・・・あやまんなくて、いいよ。」
「ならば、何故、部屋から出てこない。」
「・・・。」
「ミラーニューロンの活動によって映像内で行われている行動を自身に置き換えて連想するのは生命体として自然
な精神の働きだ。羞恥心を抱く必要は無い。それとも、胸部の規格が他の個体と異なっていることに対するコンプ
レックスが・・・」
「えぇっ!? ち、違っ、そ、そんなんじゃ!・・・・・・ない。」
「・・・ようやく、部屋から出てきたか。」
「・・・。」
「食事をとれ。餓死されたら、殺せなくなる。」
「・・・じゃあ、今、殺してよ。」
「・・・何?」
「早く殺してよ! もう・・・もうやだよぉっ!!」
「一体何を言っている。おい、何処へ行く。」

少女は玄関のドアを開け、雨の降りしきる宵闇の中へと走り去っていった。

一人残された男は暫し呆然と、開け放されたドアを見ていた。
いつも無表情な顔面は、いつも通り無表情だったが、どこか、いつもより輪をかけて表情が失せていた。

「・・・衰弱している状態で雨によって体温を奪われ、風邪をひいて、死なれては困る。殺せなくなるからな。」

だれに向けるでもなく、男は一言そう言うと、傘立てにあった少女の傘を携え、降りしきる雨の中へと踏み出した。










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