ひとも、きかいも、しんだらおんなじとこにいくのかな
そういって、お前は いつも





気が付けば私は、金属で覆われた狭い空間の中に居た。
これが時空転移装置で、未来に戻ってきたのだと理解したと同時に、時空転移時の際に発生したエラーによって
破損して失われてしまっていた記憶が蘇る。
己の任務の理由。過去に赴いた事による歴史の変化。今になって何もかもを思い出し、理解した。

『特殊任務遂行特化型機体、任務の遂行を確認。詳細報告をせよ。』

扉が開くと、先程までとは全く違う光景が広がっていた。
周囲は衛生的な白い壁紙が張られた病室ではなく、光沢のある金属と、張り巡らされたケーブルに覆われてい
る。
過去に赴く前はこれが当たり前の光景だったはずなのだが、今は何故か、どこか違和感を感じている。
歴史の変動によって差異が発生しているようだが、それだけが理由ではないだろう。
この場にはそぐわない古びた革靴で、無機質な通路を歩く。
壁面には、作業用に特化した昆虫のような無数の機体がめまぐるしく行き交っていた。

ポッドから十数メートル先。
空間の中央にそびえ立つ、円柱状の巨大な金属の柱。
我々を生み出した存在であり、我々にとって絶対の存在である、メイン・マザー。

命じられた通り任務の詳細報告をするためにそこへ向かって歩を進めようとしたが、停止した。

「・・・ああ、そういえばお前は、何故自分が殺されねばならないのかを、知りたがっていたな。」

時間をかけてゆるりと歩み、そこには居ない誰かに向かって語りかけた。

「ようやく、思い出した。」

我々の過去、お前にとっては未来の話だ。
人類は自らの生活の向上、社会システムの効率化を図るために我々ロボットを作り出し、日常に取り入れた。
我々を統率するマザーと呼称される巨大コンピュータと、人の形をした、あるいは人とは全く異なった形状をとる
我々は、人類の繁栄のために尽力した。

しかしある時、我々を統括するマザーは暴走し、ある一つの裁定を下した。

『人類を調整、統轄管理する』

それは、計算された人口調整などではなく、人類の社会構造を崩壊させ、滅亡へと導く事に他ならなかった。
人類の繁栄を目的として作られたマザーがこのような決断をすることは誰も予想だにしていなかった事象であり、
マザーが暴走し、狂ったのだと人類が気付く頃には、もう、全てが手遅れだった。
人類は必死に抵抗を試みたが、その生活の殆どを我々に依存し続け、最早機械無しでは生活出来なくなっていた
人類は、あまりにも劣勢だった。
知恵ある獣は、その最大の武器である知恵で築き上げてきたものによって、霊長たる立場を追われることとなっ
た。

社会構造は崩壊し、我々による武力制圧によってその数を減らし続けた。
増えすぎていた人類の間引きを、マザーは命じた。
具体的な人類の最終削減目標数は、示されなかった。

しかし、ある日を境にその戦況が傾き始めた。
我々を倒せるほどに卓越した身体能力を持つ、我々が危険因子と呼ぶ人類が現れ、戦況は一変し、我々は苦戦
を強いられることとなった。
当初は人類が何らかの方法で秘密裏に遺伝子変異個体を作成したのではないかと判断されていたが、それは誤
認だった。
調査が進む内、それらは自然発生した人類の突然変異型進化個体だという結論が導き出された。
人類という種は、我々に対抗するために進化を遂げていたのだ。

その危険因子から採取されたDNAデータから辿り着いた共通の祖先が、お前だ。
幾度もシミュレートを実行したが、どのようなシミュレートを何度実行しても、お前の遺伝子を消滅させる以外に危険
因子を消滅させる事は不可能だった。

突然変異を引き起こす因子はお前の代で一度発現した後、子孫の遺伝子情報の中に埋もれ、それと知られること
もなく長い年月を掛けて拡散し、受け継がれてゆく筈だったのだ。
特異な身体能力がおまえの代で目覚めた要因は、私の予想ではおそらく、幼少期に瀕した生命の危機だろう。

種の存続の危機を迎える事によって埋もれていた遺伝子が一気に発芽し、新たに人類の進化の先端としての役
割を果たす筈だったのだ。
しかし、それらが全て失われた今となっては、全ては無意味な推論でしかない。

マザーは、危険因子を取り除く事を急いだ。
未だシステムが不完全な試作型の時空転移装置を用いてまで、特殊任務遂行特化型機体、現時点の技術力の
限りで人間を極限まで模して作られた私を、過去へと送り込んだ。

私に課せられた任務は、お前を殺し、お前の遺伝子が未来へ影響を及ぼさぬようにする事。

結果として、私はお前を殺すことが出来なかったが、結果として、任務は遂行された。
マザーの望んだ通り、お前の遺伝情報は人類の歴史上から消滅した。

「やはり私は殺したのだ。お前を。」

生命体としての最終的な目的を考えれば、それは同義だ。
お前が子孫を残していれば、お前の血筋は我々を凌駕し、再び人類に栄華を取り戻し、その繁栄の頂点に立った
ことだろう。
だが未来は変化し、人類はわずかな抵抗の後、瞬く間に制圧されたのだと、過去の記録に残っている。
生き残りは保護区域にて厳重に管理され、いくつかの個体は人類の生体データを採集、記録、保存するため、施
設へと収容されている。
人類に待ち受けている未来は、あまりにも、お前の理想とはかけ離れたものだろう。

「私は、お前の人生も、殺した。」

本来の歴史ならば、伴侶と子供、孫。
ささやかながら、本物の家族に見守られながら事切れる筈だったのだ。
だが、今際の際にお前のところに居たのは、人ですらない私だけだ。
変化前の歴史でもそれほど豊かな人間関係が築かれていた訳では無いようだが、その人間関係を更に希薄なも
のにした要因は間違いなく、私だ。
私がお前を、孤独にしたのだ。

「・・・だから言ったではないか。お前の望む未来になど、ならないと。」

お前はある意味、人類を滅亡へと導いたのかもしれない。
お前は、今、嘆いているか? それとも、悔いているか?










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