一斉掃射が、ロイの装甲を抉る。

「い、や・・・、いやぁああああああああっ!!」

声の限りに叫んだはずなのに、その声は、弾丸が白い装甲と岩を穿つ音で完全に打ち消された。
のどがヒリつく。撃たれた肩がうずく。
脈打つようにズキズキと痛みが増していく。
怖い。痛い。怖い怖い怖い怖い。
絶対的な恐怖が頭の中に満ち、思考を混乱と混沌で黒く塗りつぶした。

「ちっ、装甲が堅いな。埒があかない。・・・おい、手榴弾をもってこい。隙間に隠れた『死神』を先に片付ける。」

だめだ。こんな隙間に投げ込まれたら、逃げ場なんて無い。
ここで死ぬんだ。手榴弾で吹き飛ばされてバラバラになって丸焦げで。

痙攣するかのような呼吸しか出来ない。
この場の空気さえも私に大して殺意を抱いているかのような錯覚。
脳にゆきわたる酸素すら足りないというのに、呼吸することすら怖ろしい。
思考すらもかなぐり捨てて、いっそ狂ってしまえたら楽だろうと思うほどに恐怖した。


『休眠時間終了。再起動完了。』


聞きなれた声。ヒトじゃない声。
その声が聞こえる寸前銃撃が止み、
その声が聞こえると同時に、ぴん、という音が聞こえた。

黒く丸いそれが白い装甲と岩の透き間を通るより先に、ロイは背中から腕のような形をした大型のマニュピレータを
伸ばしてそれを掴み取り、瞬時に上へと放り投げた。
次の瞬間、頭がくらくらするような破裂音が響く。

『・・・はか、せ?』

ロイが私に眼を向けた。
と、同時に、上が慌ただしくなった。

「くそっ、壊れていたんじゃなかったのか。」
「まだ動きが鈍いぞ、今のうちにつぶせ!」
「ありったけの弾薬を持って来い!」


再び銃弾の雨が降り始めた。

『博士。負傷、を?』

ロイは銃弾の雨にも動じず、血に染まる私の肩を見ていた。
がたがたと震える体を自分自身の腕で押さえつけるように抱きしめながら、弾丸の雨音の中、半ば無意識に、情け
ない涙声が出た。
恐怖の中に僅かに安堵が混じり、縋ってはいけないと思いつつも、縋ってしまった。


たすけて。ロイ。


縋るようにそう言ってしまってから、後悔し、恐怖した。
あまりにも曖昧な指示。
ロイが敵の無力化を優先した場合、私はここに取り残されるだろう。
ロイはきっと上まで行って、一瞬で敵を倒してしまうのだろう。
だが、ロイがこの場を動き、一瞬でもこの銃弾の雨にさらされれば、私は死ぬ。


しかし、目の前が真っ暗になりかけていた私に対してロイがとった行動は、私の予想とは異なったものだった。
六本脚のうちの真ん中一対の脚で私を腹の下に抱え、背中の大型マニュピレータで岩を掴み、四本脚で岩場を駆
け上がり、上に到達すると同時に機体の角度を変えて私に弾丸が及ばないようにしながら敵をなぎ払った。
腹の下からの視界は限られていたし、動き回る機体の動きに翻弄されてその顛末はよく見えなかったが、一発の
銃弾も私を掠めることはなかった。

岩場周辺の敵を戦闘不能にした後、元の岩場の影に私は下ろされた。

『岩場の麓に敵多数確認。どうしますか、博士。』

いやだ、もう逃げたい。けれども

「てっ、敵と、敵の移動手段の内訳は?」
『重火器装備兵5、通常装備兵20。強化装甲トラック8台。』
「岩場で倒したのは10人程度だから・・・重火器装備兵全員と通常装備兵の半数を無力化。トラックは3台だけ残し
て、あとは破壊しなさい。」
『了解。』

このまま逃げれば、追われる。
だから、少なくとも私たちを追えないようにだけはしなくてはならない。
指示を聞いたロイはその巨体らしからぬ身軽さで跳躍し、岩場の影から出ていった。

がしょん、がしょんと、跳躍しながら岩場を移動する音が遠のいて行く。
自分で命じておきながら、おいていかないでほしいと、思ってしまった。
実に、手前勝手な考えだ。
そして、残された事に対して、不安ではなく、寂しさを実感した。
実に、愚かしい。

戦闘による振動と爆音で岩場がびりびりと震えている。
断続的な発砲音と、どがんどがんと大きな爆発音の後、ロイが戻ってきた。

『博士、傷は、大丈夫なのですか?』

オイルまみれで煤まみれで。
強固な装甲にいくつも傷を付けられているというのに。
なんで、私なんかを心配するのだろうか。

「・・・大丈夫よ。」
『・・・了解。』

その声が、どこか怯えているように聞こえ、その白い巨体が、なぜか震えているように見えた。
恐らく、私が怯えていて、震えていたからだろう。
たぶん。










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