私たちは急いで荷物をまとめてその場を離れた。
日中を歩き通し、とりあえず野営のできそうな場所までたどり着いた。

にじみ出た血で赤く染まった包帯を取り替える。
その作業を、ロイはじっと見ていた。

『傷の、程度は。』
「浅いわ。ちょっとえぐれただけ。弾は入って無い。」
『・・・了解。』

暫く、血に染まった包帯と私とを交互に見た後、周囲の警戒に戻った。

あの戦闘の時のロイの動きは、通常の戦闘時とは異なっていた。
明らかに、私があの場に取り残されれば負傷するという事を想定しての行動だ。
それに、通常の機動をしていれば、慣性で私の体はどうなっていたかわかったものではない。
あの緩慢な動きは、反動で私がダメージを受けるということを考慮しての行動だったのだろうか。
だとするならば

「ロイ。」
『何ですか、博士。』
「その場に待機。周囲の警戒は続行。」
『了解。』

白い腹の下に布を敷き、毛布にくるまった。

『博士?』
「・・・。」

声をかけられたが、返事はしなかった。
理由を聞かれるかとも思ったが、ロイはなにも聞かなかった。
理由などない。いや、理由など分からない。
ただ、そうしたかったのだ。

『博士。』

暫くして、再度、声をかけられた。
やはり理由を聞かれるのかと思ったが、そうではなかった。
返事はしなかったが、私が聞いていることもわかっているのだろう。ロイは言葉を続けた。

『博士、僕は、博士が負傷することが、嫌です。博士の身体に損傷があるという事を認識するのが、嫌です。』
「・・・。」


『だから、僕は、博士を守ります。』


彼の自律思考は既に私の想像の域を超えて、複雑な精神構造を構築していた。
彼にそう思われるべき人間などではないと思いながらも、何も言えなかった。

もそりと毛布から顔を出し、ロイの脚へと手を伸ばした。
指先が触れた装甲は、白く、冷たく、滑らかだ。
私が今触れているものは何だ。
ただの冷たい金属の固まりか。自らが作り出した強大な兵器か。
いや、ちがう。これは

「・・・ロイ。」
『何ですか、博士。』

「・・・ありがとう。」

感謝の言葉は、自然と口からこぼれた。
ロイは感謝の言葉に対してどう反応すればいいのかわからないらしく、一度だけ触覚のようなセンサーを、ぎゅい、
と揺らし、再び沈黙した。

なぜだかそれがおかしくて、すこしだけ、頬がゆるんだ。
慕情とすら呼べないほど、未熟な感情。
それが月日の流れの末に膨れ上がり、果てには互いを想うようになるなど、想像すらできないほどに仄かなものだ
った。



ロイのことを、兵器として見なくなった
ロイのことを、道具として見なくなった

嫌いだった白い色が少しだけ好きになった
白い天井も悪くないと思い始めた

ロイに初めて好意を抱いた


そして、後悔と恋慕の痛みが、育ち始めた日









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